棚守房顕覚書103 銘刀荒波のこと(5)

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棚守房顕覚書103 銘刀荒波のこと(5)

荒波の代わりに乱髪を奉納し、荒波を取り出し、神前の御盤の上に置き奉りました。この刀(を将軍に差し出すの)は神慮のない事ではありますが、当社末代の事で、神へお返しがありますようにと祈念しまして、上野兵部大輔殿を神前に呼び、渡した時、「天下の代々に、ご寄進は神社にするもので、神物をご所望することは旧例にはないことです」と申し渡しましたら、上野殿の返答は「社官(=神官のこと=ここでは棚守房顕のこと)の申されることは、ごもっともであると思います。上意(=上司からの命令…ここでは将軍からの命令)であり、御前でこうして相対した若輩達が、荒波を御上覧しないでと申せば、浅々(=軽々しい)と思われます。この刀をすぐに返すように進言します」と受け取って帰りました。

荒波は渡したくない棚守

銘刀荒波を将軍に所望されましたが、棚守房顕は荒波は嫌だからと乱髪を渡した。しかし将軍はそれでは納得しなかったので、乱髪を厳島神社宝蔵に収めて、代わりに荒波を取り出した。どうしても棚守房顕は荒波を渡したくない。渡したら帰ってこないに違いないと思っている。
●棚守は「刀マニア」なのかも。

棚守の主張
棚守房顕覚書100 銘刀荒波のこと(2)」にもあるのですが、棚守房顕は「神社は寄進してもらうところであって、将軍であっても欲しいからといって神社が差し出すのはおかしい」と主張していました。で、将軍の使者である上野兵部大輔に対しても直接、ほぼ同じことをこのページで言ってます。で、その棚守の発言に対して、上野兵部大輔は「ごもっともなんですけど、逆らうわけにはいかないんで、刀をすぐ返すように進言するからねー」と受け取って帰って行った。

神慮の意味

棚守房顕は宝蔵を管理する役職で、宝蔵の神物を「見る」だけでも「くじ」を引いて当たらないと見れない。これは明治維新後の明治政府との交渉でも同様でした。そのくらいですから、将軍だって「欲しい」って言ったからって荒波を差し出すなんてダメ。プライドが許さない。ひっくり返すと厳島神社の威信は毛利の管轄下に入ることで「低下」していたんじゃないかと思います。厳島神社は毛利の管轄。ってことは毛利が将軍のご機嫌を取るためには厳島神社の宝蔵は好きにしていい。そういう事情があったのではないかなと思います。
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