清盛願文

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清盛願文の原文

弟子清盛敬白、夫以蘋繁風芳、自混芬陀利華之露、潢汚水潔、遂歸薩婆若海之波。和光同塵、不其然乎。伏惟安藝國、伊都岐島大明神、名載常篇、禮存桓典。一區拠孤洲之●(截に上が山)●(薛の草冠が山)、四面臨巨海之渺范謂其靈勝、則如雲蓬露菜之在乾坤之外、謂其締構、亦省金殿玉樓之挿崑閬之間。凡厥靈驗威神、言語道斷者也。於是弟子本有因縁、專致欽仰利生掲焉。久保家門福禄、夢感無誤早驗、子弟之榮華、今生之願望己満。来世之妙果宜期。相傳云當社是觀音菩薩之化現也。又往年之比、有一沙門。相語弟子曰願菩提心之者、祈請此社、必有發得。自聞斯言、偏以信受歸依。本意盖在于茲。但事隔經論之説旨、非書紀之文委巷之語。恐似憑虚。然猶倩思諸法之定不定、唯在一心之信不信者欤。故漢主之信臣節也、河上之波忽結氷、李廣之思父讐也草中之石暗飲羽。何况百界干如、説而為經、謂之妙法。二十八品、顯而為人。謂之觀音。従本垂迹現而為神。謂之當社。本迹雖異、利益惟同。若授不退金輪之手、菩提心定純熟。若承上品蓮臺之跏。菩提道速圓満。發心之義、豈成疑殆。而今雖為在家、身己有求道之志。朝暮所營者、讃佛乘業、寤寐所繋、生極樂之望。若是懇祈所致、冥應之令然歟。是以弥致奉賽、欲發浄心、奉書冩。妙法蓮華經一部廿八品、無量義觀普賢、阿彌陀、般若心等経各一巻、便奉納干金銅筐一合、可安置之於寳殿矣。弟子竝家督三品武衛将軍、及他子息等、兼又舎弟將作大匠能州若州両判史、門人家僕都盧、卌二人、各分一品一巻、所令盡善盡美也。花敷蓮現之文、出自吾家合カ、玉軸綏牋之典、成自一族同情。盖為廣修功徳各得利益也。二年之天暮秋之候、自参寳前、敬講花偈。始自明年、將修卌講。以為年事、不可失墜。擬枌楡於真如之宮、斒黍稷於醍醐之味。捧此功徳、奉賁當社。鎮護國家之威、長被百王、成就衆生之誓、彌遍三土。於戯、龍管之凌鯨波、不容易。雖忘持重九卿詣孤島又甚稀。庶為相憐。唯願速得無上之道心、必遂順次之往生。進思無始之罪垢、雖似雲之満虚空、退觀一心之本源、猶譬日之照霜露。然則百年之終、十念具足、超中有遊西方。雖下品不嫌猶聞法於未敷蓮華之裡。證中道未晩。先利物於舊栖桒梓之郷。能至菩提引導法界。今日之願、旨趣如斯。乃至福所覃廻施不限敬白。
長寛二年九月 日 弟子従二位行権中納言兼皇太后宮権大夫平朝臣清盛 敬白

現代語訳

清盛は敬い、申し上げます。浮草は茂っても風は芳しくあり、芬陀利華(フンダリケ=白蓮華)の花の露は混ざると、汚れた池の水は清らかになり、薩婆若(=仏の智慧)は海の波についには帰る。和光同塵(=仏・菩薩がみんなを救うために俗世に隠れること)であるなぁ。伏してお願いします。安芸国の伊都岐島大明神。その名前は詩歌の中に常にあり、礼を持って書物に述べられています。その区域(=神社のこと)は孤島で山は険しくて、周囲は豊かな広い海に囲まれて、その霊験は勝っています。天地の外にある雲蓬露菜のようです。其の構造は、金殿玉樓(=大変に立派な美しい建物)の崑閬の間を省いているようです。其の神の霊験・霊威は言語道断ともいうべきものです。
私めどもには因縁があります。欽仰(=尊敬し敬う)して利生(神仏から受ける恩恵)を掲げてきました。我が家のものは幸せを長く保ち、夢のように感じ、兆候を見誤ることなく、家族は栄え、現世では願望は満たされています。来世をよろしくお願いします。聞いたところによると、この神社の神は観音菩薩が現世に現れたものだそうで。以前のこと、ある僧がいました。弟子に話して言いました。菩提心(仏道に入る心)を願う人が、この神社に祈請(神仏に祈る)すれば発得(悟りを得る)するものだと。この話を聞いてから、信仰心を持つようになりまして、帰依しようと思い、現在に至ります。お経とその解説書である論の間には隔たりがあり、記された言葉は巷の言葉ではありません。虚空を頼りにするような恐ろしさがあります。この世のあらゆるものは定まったり定まってなかったり、ただ心が信じるか信じないかしかないものです。漢の玄宗皇帝は臣下の礼節を信じ、川の上の波がたちまち氷となり、李広将軍は父の仇を思い、草の中の石は矢の羽までを飲んだと言います。百界干如(仏教でのすべての世界)は経によって説かれ、妙法によって語られます。
28品は人のためです。観音様によるものです。本地垂跡によって現世に現れた神によるものです。これは当社(厳島神社)によるものです。

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